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■■■ 終章 きみのさいわいのうた [ きみのたたかいのうた ]
忙しない気配が駆けてくる。 「騒々しさは相変わらずですね、六代目」 傍らに控えたシカマルが、揶揄するように言う。 「だねぇ……」 「あいつが七代目でいいんすか?」 にやにやと笑うシカマルに、火影の椅子に座った銀色の大人は苦笑した。 「シカマル君だって、裏で随分走り回ってたみたいだけど」 「……同期のよしみですから」 「嘘つけ、サクラと陣頭指揮取ってたの誰だよ。なぁ、赤丸」 ワォン、とキバの相棒が吼える。 「るせ」 ノックの音がして、許可を受け開かれた扉からサクラが顔を出した。 「火影様、只今戻りました」 「お帰り。砂との会談はどうだった?」 「予定通りです。風影様からのお祝いの言葉を頂きました。ほらナルト、あんたの口から報告しなさいよ」 どん、と背中を押されて部屋に飛び込んできたのは、こがねの髪を輝かせた青年。 「只今帰還しました。六代目」 礼をとるのもそこそこに、満面の笑みを浮かべた。 「カカシ先生、十日ぶり!」 「おつかれさま、ナールト」 にこやかに微笑みあう師弟に、サクラがため息をつく。 「そういうのは公の場所じゃないところでやってください。示しがつきません」 「サクラ、無駄だって。聞いてねえよ」 キバがにやりと笑った。 「先生」 「ん?」 「あんさ、あんさ、知ってた? 今日月蝕があるんだってばよ」 ナルトが声を弾ませる。 「我愛羅が教えてくれたんだ。結構凄いらしいから、帰ったら一緒に見ようぜ」 いいよ、と返されるのを疑っていなかったナルトは、黙り込んだカカシに首を傾げた。 「……カカシ先生?」 ほたり。 カカシの藍色の右目から、雫が転がり落ちる。 唐突に泣き出したカカシに、ナルトが激しく狼狽する。 「せ、先生?」 カカシはほろほろ、と涙を零して。 微笑んだ。 「おかえり、ナルト。────お帰り」 その声は少し、震えていた。 ナルトは瞑目し、にかりと笑って。 「ただいま、カカシ先生」 うたうように、紡いだ。 [ text.htm ] |